映像制作では、フラッシュや点滅などの演出はインパクトがあり、比較的簡単に迫力を演出できるため、つい多用したくなる表現です。
しかし、そのような映像は視聴者によっては、てんかんなどの発作を引き起こす原因になる可能性があります。
そこで今回は、自分が制作した映像をできるだけ安全に視聴してもらうために、どのような点に注意すればよいのかをまとめていきます。
また、実際に私が制作した映像を判定ツールでチェックし、違反と判定された箇所をどのように修正したのか、その過程についても紹介します。
光過敏性発作について
光過敏性発作(光感受性発作)は、映像に含まれる点滅やフラッシュ、ストロボなどの表現によって、てんかん発作や頭痛などの身体的な症状が引き起こされることがある症状です。
1997年には、激しい点滅表現を含むアニメを視聴した子どもたちが体調を崩し、600人以上が病院へ搬送される出来事がありました。いわゆるポケモンショックと呼ばれる事件です。
この出来事をきっかけに光過敏性発作への認知が広まり、テレビ放送や映像制作の現場では、点滅表現に関するさまざまなガイドラインが作られるようになりました。
映像制作上のガイドラインと実施について
現在では、多くの企業や放送局が独自のガイドラインを定めています。
一方で、「これを守れば絶対に安全」という基準が存在するわけではありません。そのため、個人で映像制作をしている方や学習中の方は、それぞれのガイドラインを参考にしながら、自分なりの基準を設けて制作していくことになるでしょう。
今回は、Netflixとテレビ東京が公開しているガイドラインを参考に、映像制作で注意したいポイントをまとめます。
実際にガイドラインを厳密に守ろうとすると、制作中に目視だけで判断するのはなかなか大変です。そのため、判定ツールなども活用しながら制作を進めるのがおすすめです。オンラインで利用できる判定ツールについても、記事の後半で紹介します。
せっかく時間をかけて制作した映像ですから、多くの人に安心して楽しんでもらいたいものです。より安全な映像制作を意識することで、より多くの人に届けられる作品になるでしょう。
個人で映像制作をする場合に気を付けたいポイント
テレビ東京とNetflixのガイドラインを参考にすると、個人制作では次のような点を意識すると、安全性を高めることができます。
1. フラッシュ・点滅は1秒間に3回を超えないようにする
最も重要なのが、激しい点滅を繰り返さないことです。
テレビ東京では1/3秒に1回を超える点滅を避けるとしており、Netflixでも1秒間に3回を超える急激な輝度変化を問題としています。
制作する際は、
- 稲妻
- スパーク
- 爆発
- 銃口の火花
- カメラフラッシュ
などのエフェクトは特に注意しましょう。※ちなみにNetFlixでは画像の25%を占める領域での輝度変化から輝度点滅エラーとしています。
2. 画面全体を一気に明るく・暗くしない
画面全体が白く光ったり、一瞬で暗転したりする演出は、フラッシュと同じような刺激になります。
また、急激なカットチェンジや、明るいシーンと暗いシーンを連続して切り替える編集も注意が必要です。

3. 赤色の点滅は特に注意する
鮮やかな赤色の点滅は、他の色よりも危険性が高いとされています。
警告灯やサイレン、赤い魔法陣、赤い雷などを高速で点滅させる演出は、できるだけ避けるか、点滅速度を落としましょう。(NetFlixでは赤点滅エラーとしています。)
4. 細かい縞模様や規則的な模様を多用しない
危険なのは点滅だけではありません。
例えば、
- 白黒の細い縞模様
- 渦巻き模様
- 細かい格子模様
- 水玉模様
など、コントラストが強く規則的な模様も光過敏性発作を誘発する可能性があります。
さらに、それらが高速で動いたり、反転したりすると危険性が高まります。(NetFlixではこれらを空間パターンエラーと呼んでいます。)
5. 点滅が長時間続かないようにする
Netflixでは、点滅速度が基準以内であっても、5秒を超えて点滅が続く場合は問題になる可能性があるとしています。
雷雨やライブ演出など、長時間ストロボのような状態が続くシーンでは、途中で明るさを変えたり、カメラアングルを変えたりして刺激を分散させることを検討しましょう。
6. 意外な場所にも点滅は潜んでいる
点滅は「フラッシュエフェクト」だけではありません。
例えば、
- 木漏れ日
- 車が橋の柱を高速で通過する場面
- ネオンの反射
- 水面の反射
- テレビ画面
- モニターの表示
- カメラ移動による光のちらつき
なども、条件によっては判定ツールで問題になることがあります。
「点滅を作ったつもりはないのに引っかかった」というケースも珍しくありません。
7. 最後は判定ツールで確認する
人の目だけでは、安全かどうかを正確に判断するのは困難です。
そのため、大手配信サービスや放送局でも専用の解析ツールを利用しています。
個人制作でも、公開前に判定ツールでチェックすることで、見落としていた点滅や危険なパターンを発見できる可能性があります。
完璧に危険をなくすことは難しいですが、「できるだけ多くの人が安心して視聴できる映像」を目指すという考え方も大切じゃないかなと思います。
今回使ってみたのはオンラインツールのVideo Auditです。光過敏性てんかんに関するWCAG 2.3.1コンプライアンスをテストするための評価ツールとして、 W3CのWeb Accessibility Initiative (WAI) に公式に認定されているそうです。
動画を修正する
上で紹介したVideo Auditで、自作のアニメーションを判定したところ、2本違反ポイントがあると認定されたアニメがありました。雷やスパークのアニメだったので典型的な、フラッシュや点滅が多くなりがちなアニメです。
これらのフラッシュが多くなりがちなアニメでも、気を付けるポイントを押さえれば、表現したいことや効果をなるべく維持しつつ、光過敏性発作の危険を下げることができます。
違反箇所と修正方法などをメモしておきます。
スパークのアニメ
- 元のアニメーションの違反ポイント
- 広範囲のフラッシュが一秒間に4回入っている
改善ポイント
フラッシュの箇所を2か所減らしました。
また、部分的なスパークも25%以上の領域で輝度変化があったので、スパークの形を似たような形のサイクルにし、変化の領域を最小に抑えることにしました。

右の動画が、今回修正した動画です。
点滅・フラッシュ表現がありますのでご注意ください。
最後のちょっと長いスパークで違反が出ていましたが修正しています。これはすでに修正後の動画になります。
雷のアニメーション
- 元のアニメーションの違反ポイント
- 雲間のフラッシュが多い。
- 雷ストロークの点滅が多い。
改善ポイント
雲間フラッシュを減らし、1コマフラッシュもコマ数を増やし、変化が急激にならないようにしました。
また、最後の大きい雷ストロークも点滅させていたので、この点滅の回数を減らし、その代わりに輝度の値を3コマくらいかけて上下させることにしました。
輝度点滅エラーの違反がなくなったので、急な変化の部分を緩やかにすることでも危険度を減らすことができるのではないかと思います。

右が修正済みの雷のアニメーションです。
点滅・フラッシュ表現がありますのでご注意ください。
修正はしましたが、それでも雷のピカっと光る表現や雲間のフラッシュは感じ取れるものになっています。
光過敏性発作(光感受性発作)を考慮して修正する、ということが、すぐに自由な表現ができなくなる、というわけでは決してないと思いますので、危ないポイントを押さえておくと良いと思います。
注意書きについて
フラッシュや点滅を使用したシーンについては、判定ツールで問題がないことを確認していても、光刺激に敏感な方が視聴前に判断できるよう、注意書きを表示しておくと親切です。
以下は、AIに作成してもらった注意書きの例です。判定ツールで問題がないことを確認したものの、念のため注意喚起をしておきたい場合などに、必要に応じてご利用ください。
日本語
この映像にはフラッシュ・点滅表現が含まれます。点滅判定ツールによるチェックを実施し、ガイドラインを参考に調整していますが、ご視聴の際は体調にご注意ください。
英語
Warning: This video contains flashing lights and flickering effects. The content has been checked with a photosensitivity analysis tool and adjusted in accordance with established guidelines. If you are sensitive to flashing lights, please use discretion while viewing.
ちなみに、誰もが知っている有名なアニメ作品の一部を試しにこのオンラインツールで判定してみたところ、違反と判定される場面が見られました。
放送業界で用いられている基準や判定方法と、このオンラインツールの基準が異なる可能性もあります。また、このツールの判定を厳密に守ろうとすると、現在放送されているアニメ作品のような迫力のある演出を再現する難易度が上がる場合もあるかもしれません。
このツールは放送局や配信事業者が実際に使用している判定ツールではありません。あくまで参考の一つとして活用し、最終的には作品や公開先に応じて各自で判断してください。
※本記事で紹介するガイドラインは、安全性を高めるための参考情報です。すべての映像作品に同一の基準が適用されるわけではありません。本記事を根拠として他者の作品を一方的に批判したり、攻撃したりすることはお控えください。
まとめ
そもそも光ってやはりすごく刺激になるので、ただネットを見てるだけでもとても疲れますよね。自分ももうダークモードじゃないと見てられないほど光を見たくないと思ってるんですが、動画を作ってるときにはついついフラッシュとか点滅、補色など強い表現を使ってみたくなっちゃうんですよね…。
完璧にリスクをなくすことは難しいですが、少し意識するだけで多くの人が安心して楽しめる映像に近づけることができます。本記事が、安全で魅力的な映像制作の一助になれば幸いです。













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