Blenderのヘアーカーブシステム(Hair Curves)によってファー(Fur:動物の毛、毛並み)を作る方法をまとめています。
例として猫の毛並みを作ってみます。リアルを目指していますが、厳密さにはあまりこだわらず、作りやすい、基礎的なファーの作り方の学習用として解説します。
ヘアーカーブシステムの基礎的な使い方については以下の記事で書いています。
ある程度ヘアーカーブの使い方は知っている前提で進めますので、上の記事を読んだり、1回ヘアーカーブを使ってみた上で読み進めることをオススメします。ヘアーカーブシステムで人間の髪を作る場合と動物の毛を作る場合ではかなり作業工程が違い、どちらかというとFur(動物の毛)を作る方が難易度が高い気がします。
毛並みを作るグルーミングやテクスチャの付け方についても工夫が必要になってきますので、気を付けるポイントをまとめて解説していきたいと思います。
この記事は、Blenderのヘアーカーブシステムを使って動物の毛並み表現の作り方を解説した中級者向けの記事です。
難易度
動物の毛
「人間の髪」と「動物の毛」は、見た目も構造もかなり違います。
見た目の違い
■ 太さ:犬や猫の毛は人間より細く、犬ではおよそ1/2の太さです。逆にゾウなどは人間より太い毛を持っています。
■ 色:どちらもメラニン色素の量と種類で色が決まりますが、動物は遺伝的に模様や柄があり、色の分布が体の部位によって大きく異なります。
■ 密度:ラッコのように1平方センチあたり10万本以上の密度を持つ動物もいます。動物は一般に「主毛(ガードヘア)」と「副毛(アンダーコート)」を持つダブルコート構造が多く、人間はシングルコート(1本)です。マルチーズやプードルなど一部の動物もシングルコートです。
■ ツヤ:動物の毛はキューティクルが薄く、ぱさついた質感になりやすいです。馬や短毛犬に見られる光沢は、皮脂を多く含んでいたり、毛の密度、生え方が寝ていることによるものです。
ポイント
- 方向がバラバラ
- 短くて密集
- 色のグラデーションや模様が多い(しま模様、斑点など)
- 毛束ではなく「ふさふさ感」「細かな乱反射」が重要(毛束感がある部分もある)
- キューティクル反射があまり目立たないことも多い


猫モデルを用意する
今回解説のメインは毛並みの作り方なので、モデルの作り方はやりません。
あまりリアルでなくなってしまったんですが、右図は自分が作った猫頭部のモデルです。
毛を生やしていくのに、やはりリアルな骨格、頭部があるに越したことはありません。ある程度毛でごまかすことはできますが…。
例えばスフィンクスという猫を見てみたりすると猫のファー無しの形態がよくわかると思います。
※耳は別オブジェクトにしておいた方が作業がやりやすいです。
今回メインはファーなので、細かいことを気にせずやっていきます。

テクスチャペイントで柄を描く
猫のファーには、テクスチャペイントで描いたパターンをそのまま色として出力できます。
猫のメッシュにテクスチャペイントをして猫柄模様のテクスチャを作っておきましょう。
一応キジトラ白っぽい模様になるよう描いてますが、柄は結構適当です。
※今回はこのままこのテクスチャを身体マテリアルのBase Colorとして適用します。
猫の体表色の傾向
猫の肌の色は、柄にもよりますが、大体うすピンクや肌色のような色をしていることが多いです。
本当にリアルにしたい場合は身体の色を肌色などにしてもいいですが、ヘアーカーブを大量に生やさないとハゲが目立つ場合もあります。体表を同じ柄にしておくと若干ごまかせます。

ヘアーカーブをつける
猫の頭部メッシュを選択し、
Shift + A > Curve > Empty Hair
でヘアーカーブを追加します。
Empty Hairはヘアーカーブの関連付けの設定はやってくれますが、カーブは自分で生やさないといけません。

ベースの毛を生やす
カーブズ(ヘアーカーブ)オブジェクトを選択したまま、Sculptモードに移動します。

Densityブラシ設定
左のブラシメニューから、Densityブラシを選択します。
このブラシはある程度まとまった複数のカーブをメッシュに植えていくことができます。
上部メニューで詳細な設定をしていきます。
上部メニュー左から
- 車アイコン…オートモード。決めた密度設定に沿うように毛を足すか引くか自動に計算してカーブを生やしてくれる(大体使うのはこれです)
- +アイコン…設定限度の数までカーブを生やしてくれる
- ーアイコン…設定数までカーブを削除する
Distance Min…カーブの根本同士の最小距離。ここでガイドカーブの密度を設定します。

●Distance Minは0.02に設定します。(メッシュの大きさによっても変わってきます、今回猫の顔の横幅1.46mです。)後からカーブを補間して増毛していきますが、そのときカーブ1本周囲に半径〇mという範囲内に増毛するので、それよりも狭い範囲でガイドカーブ同士が生えてる必要があります。
●Curve Shape 生やしていくガイドカーブの長さ、ポイント数などを設定します。
Length 0.1m
Points 6
に設定します。
ガイドカーブを生やしていく
※マテリアルプレビューで作業するとやりやすいです。
Xの対称化をオンにして、両サイドにカーブを生やしていきます。
※右側のUse Sculpt Collisionアイコンですが、これは毛をグルーミングするときにメッシュにのめりこませないようにメッシュとカーブの衝突判定をオンにしてくれるアイコンです。今はあまり意味ないですが、Combブラシでグルーミングするときに使います。

まんべんなく、同じ密度になるように、カーブを生やします。(DensityブラシのAutoモードにしてメッシュをなぞっていくと、一定の密度でカーブを生やしてくれます。生やし忘れの箇所がないように隙間があれば何回かメッシュをなぞっていけばOKです。)
目の周り、鼻、など、皮膚が出てる部分を避けます。

こんな感じで、全体にカーブを植毛していきます。

長さを調節
作るのは日本のスタンダードな短毛猫ですが、なるべくもふもふにしたい。今ベースのファーを作っているんで、大体は一緒の長さでいいんですけど、(長毛猫を見るとわかりやすいですが、)猫は目、鼻、口、周辺は毛は短めになっています。
というわけで、長さを調節していきます。Grow/Shrinkブラシを選択し、上部メニューでScalingのMinimum Lengthを0.07に設定します。最小サイズを決めると、ブラシで短くしても、それ以上短くなることがないので楽に作業できます。

とりあえず顔部分の毛を0.07mにしていきます。

さらに範囲をせまくして0.05mにします。だんだんキワからグラデーションにしていく感じです。自然な流れを作りたい。
目の上の毛はちょっと長めなので範囲から外しています

目の下、鼻や口周りの毛の生え始めは短めにします。0.03mに短くしていきます。

横から見るとこんな感じです。顔の前方だけちょっと短めになってます。

ベースの毛グルーミング
猫の顔の毛の流れ
右図は毛の流れの参考です。
大体目、鼻、口などの皮膚が露出した部分から毛が生え始めています。特に、赤く塗った長円のところから、円状に毛が生えて複雑な様相になっています。
目頭から出た毛の流れと、鼻のキワから出た毛の流れがぶつかっています。

横から見た場合
基本的には顔の皮膚露出部から毛が広がるように生えていて、横、後頭部へ毛が流れていきます。
首周辺で一旦真横に立ち上がったようにすると、もふもふした感じが強まります。

グルーミング
毛の流れ図に従ってグルーミングをします。
ブラシはCombブラシを選択し、上部メニューでXの対称化、Use Sculpt Collisionをオンにして、Collision distanceを0.002に変更します。(グルーミングしているときにひっかかりが酷くてカーブが変形しにくい場合はCollision distanceを小さくすると改善する場合があります。)

とりあえず全体をグルーミングして毛の流れを作ります。
後頭部からの流れと、サイドからの流れが、耳下あたりでぶつかっています。
あご下はちょっと外向きにカールしているように流れを作るといいと思います。

毛を立ち上げる
毛が寝すぎているので、全体的に立ち上げていきます。あまり毛が寝ていると、光の反射の具合で見た目がおかしくなりがちです。
リアルな猫も結構毛が立ちあがっているので、立ち上げていきます。
Puffブラシを選択して、Strength(強さ)を0.25とか弱くします。あまり強いとコントロールが難しいです。効果範囲もProjectedにしてなるべく広範囲にブラシが効くようにします。
これもXの対称化、Use Sculpt Collisionをオンにしておきます。

完全に立ち上がってしまうまでいかず、6~7割?くらい立ち上がるような感じでやってみてください。
全体的に毛を立ち上げました。

ジオメトリノードで毛質を設定する
ヘアーカーブ用のジオメトリノードモディファイアをつけていきます。
とりあえず
- Interpolate Hair Curves
- Set Hair Curve Profile
- Trim Hair Curves
をつけてください。
わかりやすいようにCycles、レンダリングビューで確認しながら作業します。


Interpolate Hair Curves
補間してカーブ(毛)を増毛できます。
- Surface…頭部メッシュを設定
- Surface Rest Position…チェックする
- Follow Surface Normal…チェックする
- Distance to Guides…ガイドカーブ1本の周囲半径どのくらいに増毛するかを設定。皮膚露出部にはみ出さない程度の広さに設定します。0.01~0.02
- Density …10000~。増毛する量。メッシュの面積によって変わるので見た目の満足と、PCのスペックのバランスで決めてください。(あまり大きくしすぎるとPCによってはフリーズしたりするので、10000くらいから様子を見てください)

Set Hair Curve Profile
毛の太さを調節します。
Radius…0.003
毛の細さもメッシュの面積との相対的な比率で決まります。あまりにも細くすると、毛を増量しないとハゲが目立って、PCのスペックが低いとレンダリングが重くなります。

Trim Hair Random
Trim Hair Curvesなんですが、これは元のジオメトリーノードを改造して使います。
Trim Hair Curvesノードを複製し、Trim Hair Randomという名前に変更します。
ノードの中のReposition Points for Trimmed Curvesのフレームの中にあるSet PositionノードのSelection入力ソケットにRandom Valueノードをつなぎ、トリムするカーブをランダムに選択できるようにします。
※このアイディアはCreate Any Fur in Blender! Part 2: Geometry Nodesというファーのチュートリアル動画で知ったものです。
Trim Hair Curvesをランダムで限られたカーブに適用することで、アホ毛や、不揃いの毛を表現しやすくなります。
- Length Factor…1.5
- Replace Length…チェックを外す
- Trim Random(Random ValueノードのProbability)…0.1



ベースファーの調整
AddブラシやDeleteブラシで、ハゲっぽいところに毛を生やし、はみ出したところの毛を削除します。
特に、Addブラシを使うときは、Curve Shapeオプションで、
- Length
- Radius
- Shape
- Point Count
全てを補間するようチェックすると、大体周囲の毛と同じような感じで生やしてくれます。
また、その右のFront Faces Onlyにチェックしておくと、こちらに見えてる面しか毛が生えなくなります。(たまに薄いメッシュだと裏面にも生えることがある)
左右同じではないので、Xに対称化をオフにして、目、鼻、口周りの毛を足したり引いたりして綺麗にしていきます。


ファーのマテリアル
ファーにマテリアルをつけていきます。
Principled Hair BSDFノードを使います。
- Color…身体に使ってるのと同じテクスチャイメージ
- Roughness…0.7
- Radial Roughness…0.3~0.5
- Random Roughness…0.1~0.2
人間より、毛のツヤがなくぱさぱさしているので、Roughness多めとかランダムにして、あまり光沢が出ないようにします。
ここらへんの数値はとりあえず光沢を抑えることを目的としているので、絶対というわけではないし、少しの変更だとあまり見た目も変わらないので、ライトなどと合わせて調整してみてください。

テクスチャがちゃんと表示されない場合は右の記事で解決法などを解説しています。
耳のファーを作る
猫の耳のファーを作ります。
前から見ると、
耳入り口内側 長い毛
耳入り口外側 少しだけ長い毛
耳入り口 短い毛
耳 奥 毛はない

耳の後ろ側は後ろ頭から続くように毛が生えていて、耳のさきのほうにいくにつれとても短く、寝たように生えています。また、耳のとがったところには少し長めの房毛という毛が生えてます。猫の種類によって違いますが、大体短毛猫はほんの少し長い程度です。

耳 短いファー
耳にEmpty Hairからヘアーカーブをつけます。
耳のような薄いメッシュでは、Densityブラシを使うと裏側の面にも同時にカーブが生成されてしまうので、Addブラシを使います。(Front Faces Onlyをオンにする)
Countの数値を14などに増やすと一気に複数のカーブを植えることができます。
まず耳の後ろに、なるべく一定の密度でLength 0.1mのカーブを植毛します。

上に向かって0.03mに短くなるように横から見ながら調整します。
Grow/Shrinkブラシで最低サイズを0.03にしてグラデーションになるようになぞります。

また、前面、耳の入り口まわりに0.03mの短い毛を植えていきます。

グルーミング
グルーミングは基本的に、 流れにそってCombブラシでグルーミング→毛が寝る→Puffブラシで立ち上げる の流れで、メインのファーを作ったときと同じような工程です。
耳の形に沿って上向きにCombブラシでグルーミングしていきます。
Use Sculpt Collisionをオンにして、Collision distanceの数値を少なくするとよりスムーズにグルーミングできます。
グルーミングしたあと、耳の先に房毛となるよう数本のカーブの長さを長くしておきます。


Puffブラシでカーブを立ち上げます。
耳の下側の方が立ち上がりが大きくしています。
前面も立ち上げています。立ち上がり方は小さいです。

ジオメトリノードで調整
耳のファー、頭部メインのファーの順で選択し、
Ctrl + L > Copy Modifiers
でメインのファーについてるモディファイアをコピーします。

しかし設定値が間違っているので毛が生えません。耳のファーを選択し、(耳のファーを選択できなかったら、アウトライナーから選択)
Interpolate Hair CurvesのパラメータのSurfaceを猫耳のメッシュに変更します。
これでファーが生えるようになりました。

マテリアル
耳のファーに、メインのファーと同じマテリアルをつけます。
マテリアルをつけるときに、うまく表示されないことがあります。レンダービュー、マテリアルビューを切り替えることで直ることがあります。

耳 長いファー
耳前面入口の、長い毛を作っていきます。
耳のメッシュに、またヘアーカーブのEmpty Hairを追加します。
- Addブラシで内側と外側にカーブを植えていきます。
- ランダムな長さにしたり調整します。
- Combブラシで全体にランダムな流れができるようグルーミングします。
できたらまたメインファーのモディファイアをコピーしてメッシュ設定を直しておきます。

Set Hair Curve Profile
Radiusを0.001にして毛を細くします。
Trim Hair Random
以下のようにランダムでちょうどいい長さになるよう調整しました。
- Length Factor 1.5
- Random Offset 0.3m
- Trim Random 0.5
この耳入り口の毛も猫によって長さや密度が違います。お好きなように調整してください。
(※後から
- Length Factor 1.8
- Trim Random 1
に修正してます)

もっとふさふさに
カーブを追加する
頭部のメッシュに、毛のふさふさした部分、毛が長い部分をさらに足していきます。
頭部のメッシュにヘアーカーブをEmpty Hairで追加します。
首周りと、耳周りに、Densityブラシ Length 0.1mなどでカーブを足していきます。

長さを調整します。
夏毛、冬毛、猫の種類にもよりますが、耳の前後、首周り、に毛が長くなったりします。
好きなだけふっさふさにしましょう。(ただ、長さはメインのファーの長さ(今回は0.1m)にグラデーションになるように段階的に変化させましょう。うまくなじまなくなります。)

Combブラシでグルーミングして
Puffブラシで立ち上げます

モディファイア、マテリアルをつける
メインファーのモディファイア設定をコピーし、マテリアルも同じものをつけます。
Trim Hair Randomのパラメータを変更して、自分の好みの長さ、ふぁさふぁさ具合(ランダムさ)に調整します。

修正
ちょっと自分の好みの感じと違ったので、毛の長さを短くし、首周りの毛はなるべく横方向に広げて、詰まってる感じを出しました。
毛の長さ・ニュアンスはお好みなので、好きなように調整してみてください。
また、Interpolate Hair CurvesのDensityを50000にあげ、もっともふもふさせています。


ひげ、眉毛
頭部メッシュにひげ、眉毛用のヘアーカーブを追加します。
眉毛
目頭上の部分 8本くらい
ひげ
ω マズル 10本くらい(マズルの横から生える)
本数とかは適当です。猫によって違う(ひげが抜けてる?)ので好きな本数にしてください。
眉毛は上側の方が長く、ひげは後方の方が長いと思うのですが、あまり厳密ではないです。

形を整える
外側、前方に向いているように整えて、カーブの形がカクカクしてきたらSmoothブラシでなめらかにします。

上:サイドから
下:前面から
こんな感じに形を整えてみました。
ひげの形についてはそんなに正確性はないです…。

ジオメトリノードモディファイア設定
Set Hair Curve Profileノードを追加して、
- Radius…0.01m
- Shape…0.8
他の毛より太くして、形は、毛先の細い部分が多めになるように設定しています。

マテリアル
Principled Hair BSDFノードを使います。
- Color 白
- Roughness 0.5
ひげは少し透明感もあるので、Roughnessは中間くらいにしておきました。

完成
というわけで猫のファーが完成しました。
今回は短毛のもっふりした猫をつくりたかったので、そこまで毛束感を出すことはしていません。長毛猫や、冬毛など、首下から毛束感が出てくる猫も多いです。そういうときはClump Hair Curvesノードを使って毛束感を出すこともできます。
メッシュがもっとリアルだったらもっとリアルな猫感が出るのになぁと思いました…。頭部の形が難しかったです。
でも毛のおかげで角度によっては結構リアルに見えるときもあります。後頭部から見たところとかすごいかわいいなぁと思ってます。

メッシュごとに複数のヘアーカーブをつけることができるので、カーブの調整が難しいパーツなどは分けておくとグルーミング作業が楽になります。
自分なりの作り方ですが、ファーの作り方がなんとなく伝わったら嬉しいです。みなさんの好きな動物を作ってみてください。

参考
Fur(ファー)のグルーミング、テクスチャに関しての素晴らしいチュートリアル動画シリーズです。




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