Blenderには、Depth of Field(被写界深度)というカメラのぼかし機能があります。本来は実写のような自然なボケ感を表現するための機能ですが、これを強調することでミニチュア風の演出が可能です。
ジオラマを思わせる不思議な質感――実際にはフルサイズの3Dモデルでも、視点や処理次第でまるで手のひらサイズの模型のように見せることができるのです。
Depth of Fieldの設定方法や機能について細かく解説していきますが、それだけでなく、色彩や空気遠近法の応用、視点の工夫も取り上げて、より「おもちゃっぽく」見せるためのポイントをまとめていきます。
逆に、これらのポイントをしないよう注意することでリアルに見えるようにレンダリングすることにもつながります。
この記事は、BlenderのDepth of Field(被写界深度)の機能とその利用について解説した初心者~中級者向けの記事です。
難易度
Depth of Field(被写界深度)とは
Depth of Field(被写界深度)と呼ばれるこの概念は、カメラやビデオでピントが合って見える範囲の奥行きを指します。わかりやすく言うとピントが合ってはっきり見える前後の距離の幅で、それ以外の部分は、ぼけて見えます
被写界深度が浅い・深いとは?
被写界深度が浅い…ピントが合う範囲が狭く、前後が大きくぼける
→ポートレート、ミニチュア効果、印象的な演出で使われる
被写界深度が深い…手前から奥まで広くピントが合う
→広いスケール、風景、建築で使われる

BlenderでのDepth of Fieldの設定
まずデフォルトの状態でレンダリングすると、画面のどこでもピントが合った状態になっています。どこもボケてないですね。

準備
Depth of Fieldを機能させるためには、カメラをセットし、カメラプロパティの
- Depth of Fieldにチェックします。
- Viewport Display > ShowのLimitsにチェックします。

Limitsにチェックすることで、カメラのピント位置が白い十字で表示されるようになりわかりやすくなります。
被写界深度を設定するには以下の2つの方法があります。
- 焦点距離で設定する方法
- ピントを合わせるオブジェクトを決める方法
❶焦点距離で設定
焦点距離で被写界深度を決める方法になります。Focus Distanceで焦点を当てる距離を調整し、白い十字の場所がピントが合う場所になります。
F-Stopで被写界深度の範囲を調整できます。数字が小さい方が被写界深度が浅く、ピントが合う範囲が狭くなります。

上の図では画面手前にピントが合うように焦点距離を設定しています。
❷ピントを合わせるオブジェクトを決める
右図の場合は、Focus on Objectにスザンヌのオブジェクトを設定し、スザンヌにピントを当てています。

Aperture(絞り)の設定
絞りは、レンズの中にある開閉式の穴(羽根)のことで、この開き具合でボケ具合が変わってきます。実際のカメラでは以下のような挙動をします。
- F値が小さい → 絞りが開いている → 被写界深度が浅い(背景がぼけやすい)
- F値が大きい → 絞りが絞られている → 被写界深度が深い(全体にピントが合いやすい)

BlenderではApertureのメニュー内にあるパラメータで様々な調整ができます。

F-Stop
ピントが合ってる範囲を調整するパラメータです。数値が小さいほど被写界深度が浅くなり周囲のボケが大きくなります。

Blades
絞りの羽根の形。ボケの形が変わります。3なら三角形、4なら四角形と角数が増えていきます。3以下の場合は丸い形になります。

Rotation
絞りの羽根の形が回転します。

Ratio
縦横の歪みの比率
1…歪み無し
1以下…横に伸びる
1以上…縦に延びる

EEVEEのDepth of Field
DoF(Depth of Field)の機能はEEVEEでも使用することができます。以下はEEVEEとCyclesのDoFの違いです。
EEVEE

Cycles

Cyclesの方が後ろの光のボケの数が多いですね。EEVEEのDoFはレンダリング後にポストプロセスとして画像処理されていて、Cyclesほどリアルではありません。上の画像で見られるようにハイライト部分をあまり拾わなかったりするみたいです。
EEVEEにするとレンダープロパティにDoFのメニューが増え、右図のようなパラメータを調整できます。

例えばMax Sizeを10に下げてみると右図のようにボケのサイズを小さくすることができました。
EEVEEのこれらのパラメータに関してはまだ十分テストしておらずわからないことも多いです。ただリアルなDoF効果を手軽に得たいならCyclesにすることをオススメします。

この記事で主に解説しているもの、以下のセクションから使用しているのはCyclesのDoFになります。
ミニチュア効果をかけてみよう
次はDepth of Fieldの効果を利用して、リアルに作った3Dモデルの画像にミニチュア効果をかけてみます。
飲み物複数種類とプリンを作ったこのモデルを使って実験してみようと思います。

ミニチュア効果とは?
「ミニチュア効果」とは、通常サイズの風景やオブジェクトを、まるで小さな模型のように見せる視覚効果です。BlenderではDepth of Field(被写界深度)を極端に浅くすることで、これに似た効果を生み出すことができます。
特徴的な要素としては:
- 視点が少し上から見下ろす構図(斜め俯瞰)
- ピントの合う範囲が極端に狭く、前後が強くぼける
- 彩度が高めで、模型っぽい鮮やかさ
- 青みを少なくする(空気遠近法の逆転)

こうした条件を意識することで、リアルな3Dモデルでもまるでおもちゃのような見た目に変化します。
ポイントを抑えてミニチュア効果をかけていく
❶視点が少し上から見下ろす構図(斜め俯瞰)
まずは構図を俯瞰にして見下ろすようにカメラをセットします。この時点ではまだ普通の大きさに見えます。

❷ピントの合う範囲を狭くする
真ん中の背の低いコップにピントを合わせてF-Stopの値を小さくして被写界深度を浅くします。

もうすでにミニチュアみたいに見えてきましたね。
被写界深度を浅くすると、背景がぼやけるため遠近感が強まってスケールが大きく感じられると思いがちですが、実際にはそれは接写に見える効果が強くなり、逆にスケールが小さく見えることになります。
これは自分自身も最初に誤解していたポイントでしたが、実際やってみるとよくわかります。

人間の目は意外と被写界深度が深く、普段の視界では手前から奥まで比較的くっきり見えています。
そのため、極端に浅い被写界深度(前後の強いボケ)を見ると、「これは接写した映像だ」と脳が錯覚します。
また、ボケることによって細部のディティールがつぶれることもスケール感を消してしまいます。
こうした錯覚によって、スケールが小さく感じられ、ミニチュア感が高まるのです。
❸彩度を上げる
コンポジットで彩度を上げます。現実のものって結構彩度が低いので、彩度を上げると作り物っぽさが上がります。
現実のものは、光・空気・視覚・素材・観測方法など多くの要因で、色が混ざり、くすみ、弱まるため、結果として彩度が低く見えることが多いのです。

❹青みを少なくする
コンポジットで青みを引いてみました。正確には遠くにあるほど強く青みを引いています。
現実の景色では、空気遠近法によって遠くの物ほど青白く霞んで見えます。
そこで、逆に遠くのものほど青みを減らし、色やコントラストを保つことで、視覚的に「距離感」が圧縮され、結果としてスケールの小さいミニチュアのような印象を与えることができます。

まとめ

最初の画像

ミニチュア効果をつけた画像
右が最終的なミニチュア効果を加えた画像になります。どうでしょうか。かなりおもちゃっぽくなったかと思います。
- 視点が少し上から見下ろす構図(斜め俯瞰)
- ピントの合う範囲が極端に狭く、前後が強くぼける
- 彩度が高めで、模型っぽい鮮やかさ
- 青みを少なくする(空気遠近法の逆転)
の4つの工程を経てみましたが、やはり❷のDepth of Fieldで被写界深度を浅くしたことで一気におもちゃのようなスケール感になっておもしろかったです。
最初の方にも書きましたが、逆に、スケール感を出したいときは、この4つのポイントにならないよう注意することが大事です。Depth of Fieldでボケの範囲や強度を強くしてしまうと、スケール感が消えてしまいます。